会話のシステム ― 発話権交代システム

Duncanの一連の研究[Duncan 1972; Duncan 1974a; Duncan 1974b]では,話し手(speaker)と聞き手(auditor)の2人が参加する対話から採取された,2481音韻節(phonemic clauses),885分析単位からなるコーパスの分析にもとづいて,会話における発話権(ターン)の交代に関わる社会的シグナルとそれらのやり取りを支配する原則の推定が行われた.
Duncanによれば,話し手と聞き手が自分の意向を反映する社会的シグナルを相互にやり取りすることによって,発話権の円滑な交代が行われる.
話し手が発する社会的シグナル
話し手の発する社会的シグナルとして,speaker within-turn signal, speaker continuation signal, speaker gesticulation signal, speaker turn signalの4つをあげている.このうち,話し手が発話を継続する場合に表示するシグナルは,speaker gesticulation signal, speaker within-turn signal, speaker continuation signalの3種類である.残るspeaker turn signalは聞き手が発話権交代の要求をすることを許可する.
(1) speaker gesticulation signal.話し手がハンドジェスチャを行うことで表示される.これは,利き手が発話権を要求しようとする,あるいは,発話権を取ろうとする試みを抑制する効果があり,[Duncan 1972]では,attempt-suppressing signalと呼ばれている.
(2) speaker within-turn signal.分析単位の終わりに表示される社会的シグナルであり,構文上の節の結びと話し手の頭を聞き手に向ける行為から構成されている.次に来るauditor back channelsとspeaker continuation signalと関わっている.
(3) speaker continuation signal.分析単位の始まり,ないしは,その近傍で表示される.頭の方向を相手からそむける行為であり,以下に述べるspeaker-state signalと同様である.
(4) speaker turn signal.話し手が聞き手に発話権を求めてもよいことを知らせる信号である.同時期以前の論文では,turn-yielding signalと呼ばれている.イントネーション,周辺言語,身体動作,”but uh”などの決まり文句,ピッチ,構文的な手掛かりを使って発せられる.話し手がこれらのシグナルを発していないときに聞き手が発話権を要求する社会的シグナルを送ってしまうと,同時発話が生じ,発話権の不適切な交代となる.一方,speaker turn signalは発話権移動要求を出すことの許可であり,発話権移動を強制するものではなく,聞き手はこの社会的シグナルを受け取ったとき必ずしも発話権を取る義務はない.
聞き手が発する社会的シグナル
(1) speaker-state signal.この社会的シグナルは会話参加者の状態が聞き手から話し手に遷移したことを示すシグナルであり,頭部を新しい聞き手からそむけるか,ジェスチャの始動のいずれか,あるいは,両方によって示される.さらに,別論文[Duncan 1974a]では,audible inhalation(聞き取れるほどの息の吸い込み)と,paralinguistic overloudness(声を大に)の2項目も含まれている.
同時発話が生じてしまうのは,話し手からのturn yielding signalがないのに聞き手がspeaking turnを取ろうとするとき,あるいは, 話し手がyielding signalを表示して,聞き手がターンを取る作業をはじめたのに,話し手がそれに気付かず,あるいは,無視して話し続けた場合である.
(2) auditor back-channel signal.聞き手がターンを取る意思がなく,自分が話し手の話を引き続き聞いていたいという意向を示す.
[Duncan 1974a]には,上述の社会的シグナルのやり取りによる発話権交代の論理的な構造をコーパス分析により示した.
[Duncan 1972] Starkey Duncan, JR. Some Signals and Rules for Taking Speaking Turns in Conversations, Journal of Personality and Social Psychology, Vol. 23, No. 2, 283-292, 1972.
[Duncan 1974a] Starkey Duncan, Jr.  On the Structure of Speaker-Auditor Interaction during Speaking Turns, Lang. Soc. 2, 161-180, 1974.
[Duncan 1974b] Starkey Duncan, Jr. and  George Niederehe.  On Signaling that it’s your Turn to Speak, Journal of Experimental Social Psychology 10, 234-247 (1974)