会話流通エージェントとしての会話知能

会話知能を次のような知的能力として規定する.

  • 会話に適切に参加してそこでの情報のやり取りを理解し,過去の経験,考え,その場での発想などに基づいて新たな発話をすることによって会話の場に貢献するとともに,参加した会話場でのやり取りを記憶して,別の会話に役立てることができる.
  • 会話の場への貢献としては,情報の提供,発想の提示,疑問やコメントあるいは対立意見の提示,場を和ませる,社会的なタスクを行うなどがある.
  • 特殊なケースとして,質問応答,(会話が全く含まれないかもしれない)インタラクション(例えば,囲碁や将棋やスポーツ)も含む.

最も基本的な能力は,ストーリーテリングとストーリーアンダースタンディングである.

図1:会話のセッティング1

たとえば,次のようなやり取り:

  • A「ここはTNの家の庭です.この木はナツメの木,そっちの木は姫リンゴの木です.」
  • B「ナツメの木の実は食べられるんですね」
  • A「秋になると実がたわわになります.TNはそれをとって食べるのをとても楽しみにしています」

ができたとすると,A,Bともにストーリーテリングとストーリーアンダースタンディングに対する基本的な能力があると言える.ここで目指す会話知能はAの役もBの役もこなせる人工システムである.
さらに進んだ会話知能の能力は,情動の表現と理解,社会性を考慮したやり取り,ジョークやウィットの生成と理解を含むばかりでなく,微妙な状況,抽象概念,その場にない想像上のオブジェクトや状況の表現や理解を含む.また,会話の対象とする世界がシステムで定義した世界なのか,それともユーザの棲む世界なのかで,難しさが異なるし,ユーザとシステムの間にどの程度密接な協調あるいは駆け引きをするかでも困難さが異なる.
本書で想定する会話知能の代表的なタスクは,
(1) 質問応答とナビゲーション: 会話知能で設定し,会話知能が隅々まで知り尽くし,制御できる世界にユーザを案内し,ユーザが望むと推定されるサービスをreactiveまたはproactiveに提供する.
例えば,図1では,会話知能が自分の滞在する家の庭を来訪した人を案内する.聞き手の話し手の興味や要求に応じて,実際の庭ないしはヴァーチャル化された庭を歩き回り,情報を提供する. 会話知能は話し手として「これは私のいる家の庭です」「このナツメは…」「この姫リンゴは…」といった話をする.
訪問者が2名以上になると,訪問者同士のインタラクションも認識できなければならない.この場合は,対象としている状況の中にユーザ同士のやりとりが深く入り込み,会話知能が理解すべき状況はより複雑になる.
 
(2) 会話の媒介(メディエーション):会話知能は未知の状況に入り込み,その状況と,そこで語られる人々の会話を理解し,会話に対して貢献をする.会話知能はユーザ同士の知識/情報循環の仲立ちをし,システムにおいて創造的な会話循環が行われるようになる.実世界における情報循環も含む.会話知能はユーザの棲む世界をある程度の深さまで理解しなければならない.
例えば,図1の状況では会話知能は聞き手の役割を演じて,オーナーの説明を聞いて,庭がどのようなものかを理解する.(1)とつなぐと,小話を中継するメディエータになる.新たに追加された部分は,パートナーの発話内容を理解して,(後で話せるように)記憶するところである.
もちろん,他の会話エージェント(人,アバター,エージェント)が複数入り込んだ状況は非常に複雑な様相を呈するようになる.
(3) パートナー:会話知能はユーザとともに世界を構築する.ゲームプレイにおけるチームメイトや,Simulated CrowdにおけるNPCも含む.会話知能はユーザと共生する世界を完全に深く理解しするとともに,ユーザの抱いているイメージを理解し,それについて議論したり,実際に実行しなければならない.
図1の例では,庭の真ん中に池をつくる計画についての議論に参加したり,その実行に関与したりしなければならない.「ここにこんな風に池を作りたい」,「給水や排水の便を考えるとここを広げた方がよいですよ」,「いいや,こっちにしたい」,「ここには鯉がいるといいですね」…